2010年10月8日金曜日

東芝 行政入札終了か

 防衛省は、航空自衛隊の偵察機RF4の後継として開発が進められている
新型偵察機のデータ処理システムを受注した東芝が、納期を過ぎても
要求性能を満たす製品を納入できるめどが立たないため、契約解除に向け
協議を始めたことを明らかにした。
 同省は、機体改修に掛かった費用負担や違約金支払いを東芝側に求める
方針で、新型偵察機の開発はいったん白紙に戻る。

システム全体を受注した東芝が話題になったが、結果的に放棄したようだ。
地上設備に比べ、機体側装備は経験が必要と言われ、機体設計会社と
組まないと難しいらしい。

防衛省の契約解除となった場合、防衛事務次官汚職事件の山田洋行のように、
行政関係の入札は全て停止となるのだろうか。

UAE原発競争入札で、韓国が受注したことが話題になったが、元サムスン
役員の話が面白い。
・韓国は原子炉を作ったことが無い
・原子炉の稼働率が韓国が高い
 韓国は仏製原子炉を15基保有、稼働率90%、
 日本は55基保有、稼働率は60%未満
・韓国の原子炉は東芝に発注
 「原子炉をつくったことがないのにどうするんだ?」と聞かれた韓国が、
 「隣に日本があります」と言ったら、「おおそうか。日本の技術は大した
  ものだから、じゃあ発注しよう」ということになった。

航空宇宙関係部門の契約解除は、原子力発電所関係部門にも影響を受けるの
だろうか。東芝の最近の社風か。

日本のガラパゴス現象が話題になるが、そもそも、製造単価と販売価格が
大きく異なることが問題。製造で利益を上げるには、製造単価を上げ、
製造費用が少ないソフトウェアによる機能性能を良くすることで、バランス
を取っていたのが、以前のコンピュータ業界。業界が変わっても同様の
ようだ。最近は、海外で設計から出荷までを一括でできるようになり、
製造単価が下がってきた。
日本で行うのは、仕様を決定することだけ。設計、製造等のノウハウは
引き継がれず、時間の経過と共に職人さえいなくなると言われている。

P-X/C-Xでも言われたが、機体開発の技術は継承されていないと報道され
ていた。

みかん農家よりも、紀伊国屋文左衛門のほうが儲かると言うことらしい。
でも、紀伊国のみかんだけを買い付けていたわけではないだろう。

CX 強度不足解決できず


---F15偵察機化で東芝契約解除へ 防衛省---
2010/10/01 21:05
http://www.47news.jp/CN/201010/CN2010100101001007.html

 防衛省は1日、F15戦闘機1機に偵察機能を備える改修事業を受注した東芝が、9~10月の予定だった納期を12年春まで猶予するよう求めたのに対し、これを承認しないと発表した。
 東芝が必要な部品を外国から調達できず、納期を猶予しても同省が要求する飛行や撮影の性能を満たすことができないためで、今後契約を解除する見通し。
 防衛省が納期猶予の申請を認めないのは異例。新たな改修事業は早くても12年度以降になり、当面は現行のRF4E偵察機を活用する。
 防衛省によると、改修は機体下に偵察用の光学カメラや赤外線カメラなどを収納するタンクを取り付け、地上の受信システムを設置するもので、東芝が07~08年度の随意契約で計約100億円で受注した。東芝への支払いはまだ行われていない。


---新型偵察機で東芝との契約解除へ=システム、要求性能満たさず-防衛省---
2010/10/01-19:09
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010100100832

 防衛省は1日、航空自衛隊の偵察機RF4の後継として開発が進められている新型偵察機のデータ処理システムを受注した東芝が、納期を過ぎても要求性能を満たす製品を納入できるめどが立たないため、契約解除に向け協議を始めたことを明らかにした。
 同省は、機体改修に掛かった費用負担や違約金支払いを東芝側に求める方針で、新型偵察機の開発はいったん白紙に戻る。
 同省によると、新型機はF15戦闘機をベースに赤外線カメラや情報収集レーダーを搭載。撮影した画像などをリアルタイムで司令部に送ることができるのが特徴で、東芝が機体側装備から地上設備までのシステム全体を受注した。
 全体の事業費は約210億円で、2006年度から試作機1機の製作に着手。納期は当初、今年2月だった。
 しかし、2月になっても要求性能を満たすシステムが納入できず、延長した9月末の段階でもめどが立っていないため、同省は新たな納期延長には応じなかった。


---元サムスン電子常務・吉川良三氏「サムスン電子の躍進に学ぶ、グローバル市場を見据えたものづくり」---
2010年8月4日
http://www.globis.jp/1393-1

本日は皆さまとお話しできる機会を与えていただき、大変感謝しております。本当なら勤務を終えて一杯飲もうといった時間なのに、ふたたび授業のようなものを聞くのは大変かと思います。ですから今日は、何かひとつでも皆さんのお役に立てるような話をしていきたいと思っています。『危機の経営グローバル市場を見据えたものづくり』というテーマですが、最近は皆さんも新聞やテレビのニュースで、韓国のサムスン電子やLG電子が大変躍進していて、日本がいかにもだめになっているといった論調をずいぶん目にしていると思います。

 たしかに、携帯電話、テレビ、液晶パネルといった分野では本当に敵いませんが、何故そのようになったのかをほとんどのかたが分かってらっしゃらない。私はたまたま縁あって、1987年にサムスン電子の李健煕会長と知り合いました。その後ときどき韓国へサムスンを見に行っていたのですが、当時は本当にひどい会社でした。とにかく会社の体を成していなかった。最初は三星電子と言われても、三ツ星ベルトと間違えて「どうして韓国で長靴をつくっているんだろう」なんて思っていたぐらいでしたから。

 ところが危機感を抱いた会長の大号令により93年に三星電子からSamsungへと社名を変更するとともに「女房と子供以外はすべて変えよう」という悲壮な覚悟で革新を行っていったんですね。その年に私も拉致されて(会場笑)サムスンへ行きました。半年前後で戻ってこようと思っていたのですが、気が付いたら2004年まで10年間いることになりました。その間、さまざまな浮き沈みを経験しました。特に98年のIMF危機は今の日本の危機どころではなかった。金融危機で韓国の外貨がなくなってしまったわけですら。でもそれらを乗り越えてきたからこそ今日のサムスンがある。ですからどうやって危機を乗り越えてきたかということを、私の体験からお話ししたいと思っています。

産学官で社会インフラの国際標準を取りに行け
 最近、特にグローバル市場や新興国といったキーワードをよく耳にしますよね。新興国にどう対応したら良いのか、BOP(ボトムオブピラミッド)市場をいかに攻めるかとか、あるいはボリュームゾーンをどうするか。色々と新しい単語が出てきますが、それらすべてを含めてひとつの新しい市場が生まれてきたんです。産業構造にルネッサンス以来の大きな変化が起こっているということ。それは2000年に始まったのですが、日本の企業はそこにほとんど気付いていなかった。最近ようやく気付いてきたわけで、韓国に比べると10年を一周とすれば周回遅れになっています。ただ気付いてはきたので、なんとか日本も立ち直れるという気がしています。私も日本に戻ってきてから3~4年ぐらい経済産業省にしつこく話をしていて、なかなか腰を上げなかった彼らもようやく平成19年に産業構造審議会というのを立ちあげました。そしてさまざまな分科会を経て、今年の6月2日に日本産業構造ビジョンというものが出た。そこでこれから色々と法律を変えなければいけなかったのですが、その矢先に鳩山さんが辞めてしまった。ですから作業がまた半年ほど遅れるとは思います。ただいずれにせよ、ひとつの国家戦略ビジョンは出ています。経済産業省のサイトでも公開されていますから、ぜひ皆さんも見ておいてください。産業構造ビジョンとして5つの戦略が挙げられています。

 ひとつ目は、新興国の、いわゆる社会インフラを攻めていこうということ。新興国市場におけるテレビや白物家電といった分野では韓国に勝てないし、いずれ韓国も中国に負けるかも知れないという状況にある。それなら新興国ではまだ未整備な点の多い鉄道、ガス、水道、発電といった社会インフラに力を入れていこうということです。日本は社会インフラの整備に関して高い技術を持っていながら、これまではグローバリゼーションのなかでうまくアピールできていなかった。たとえば昨年12月にUAEのアブダビで原子力発電所建設の受注があったことはご存知ですか?日本勢は圧倒的な技術力で受注できると信じていたのですが、あとから入ってきた韓国に持っていかれてしまった。経産省にはこれがショックでした。「どうしてだ」と。皆さんおわかりですか? 韓国は原子炉なんてつくったこともないんですよ?使ってはいます。フランス製を15基。でも日本では、東芝、日立などがきちんと自分で原子炉をつくっている。それでも負けたんです。何故かということですよね。これは後でお話ししますが、日本は技術立国として「技術技術」と言っていますが、技術が競争優位になっていないという大きな証拠なんです。日本人は世界に誇る技術をたくさん持っていると思っていますよね。それ自体は正しい。しかし技術が競争優位に繋がっていないし、利益にも繋がっていないんです。

 そもそも日本のものづくり、これは世界に冠たるものだと皆さん思ってらっしゃいますよね。ところが日本の外ではほとんど通用しない。ものづくりというと、皆さんは生産現場をイメージするでしょ?どちらかというと匠の世界。日本がこれにばかり入り込んでいたため、今日、韓国や中国勢に10年の遅れをとってしまったんです。しかし、今日お話しする「新しいものづくり」の概念を実践していけば、日本も改めて新しい高度成長に入り、日本の復活も現実のものになるだろうと私は考えています。

 経済産業省が示した他の戦略についても話しておきましょう。5つの戦略のうち、二つ目は環境・エネルギーです。環境・エネルギー分野に傾注していくということは、先程お話しした社会インフラも含めて「システムとしてやっていこう」ということ。私たちはこれを「スマートコミュニティ」という言葉で表現しています。今まで政府は受注ひとつにしても民間に任せっぱなしでした。それぞれの企業が勝手ばらばらに海外で戦っていたんですね。しかし今後は政府が戦略的にトップセールスをやると言っているわけです。また、日本は技術には強くても国際標準化に弱い。独自の技術でやってしまうんです。それで負けたのが携帯電話ですね。国際標準化争いではものの見事に負けてしまいました。日本の携帯電話はNTTドコモをはじめとても優秀ですよ。でも国際標準化をしなかったから世界に相手にされず、いわゆる「ガラパゴス現象」に陥ってしまっている。だから今後は国を挙げて積極的な国際標準化に取り組んでいくということ。これを私たちはスマートコミュニティと呼んでいます。

 三つ目の戦略は文化です。漫画やアニメをはじめとした日本のコンテンツは世界的にみても非常に水準が高い。これを海外へ売っていきます。今さらそんなことを言っているのですが、そもそも麻生太郎・元総理が自民党で掲げていた“アニメの殿堂”(国立メディア芸術総合センター)は民主党が潰してしまったもの。「なんで潰したのか」と思いましたけれども、あれは恐らく麻生さんが音頭をとっていたから潰されたんです、漫画が好きだから(笑)。でも、あれはつくるべきなんですよ。外国の人々が「アニメや漫画を見たい」、「日本のコンテンツを見たい」と言って日本を訪れても今は観る場所がない。せいぜい秋葉原ぐらいですよね。でも殿堂があれば世界中から人々が訪れてくれる。現在は経産省レベルでの戦略ですが、菅内閣がもし参議院で勝てば、そこでオーソライズしていくことになると思います。

 四つ目の戦略は医療・介護・健康・子育てビジネス。これは我々も分科会で議論しているのですが、医療・介護・健康・子育てに関わる高度な技術を今から構築していこうという戦略です。もの凄い先端技術が採用されていく分野ですから。介護ロボットをはじめとした高齢者医療・介護に関するノウハウは、世界でも日本にしかありません。なぜなら日本が世界一の高齢化社会だからです。この現状を足がかりにして、ひとつのシステムにまとめていこうという戦略です。5~10年もすれば韓国・中国・インドなど海外でも高齢化が進んでいきますよね。そのときにノウハウを輸出しようという遠大な計画です。

 そして五つ目の戦略は、いわゆる先端技術らしい先端技術。ロボットや宇宙ステーションといった科学技術ですね。同分野における日本のプレゼンスは大したものです。アメリカやロシアが衛星を飛ばしていますが、日本だってこのあいだ「はやぶさ」が小惑星のイトカワに行って帰ってきました。アメリカも持っていないようなもの凄い技術を持っているのだから、その科学技術を輸出していこうということです。ナノテクや炭素繊維も同じです。炭素繊維については日本が圧倒的に強い。これらの技術分野で、日本はこれまで各企業が単独で戦っていました。しかしこれからは、システムとしてさまざまな連合を組んで、これを政府が後押しをしていこうということです。実現すれば大変な成果に繋がるでしょう。経済産業省はそれをやっていこうという方向になりましたから、私としては、実は日本の未来は非常に明るいと考えています。ちょっと前置きが長くなりましたが、冒頭はこのような感じで明るい話でした。これから少々暗い話になっていきます。

石橋は渡らない、金と度胸で勝負する韓国
 まず「ものづくりとは何か」ということを考えていきましょう。私が2004年に帰国した当時、日本は「ものづくりの技術は韓国や中国にキャッチアップされているんじゃないか」という自信喪失に覆われていました。当時はパナソニックやシャープといった電機メーカー、特に携帯電話をつくっているところが韓国勢に滅茶苦茶にやられていましたから。「何故なんですか?」ということで、あちこち企業に呼ばれて話をしていました。で、とにかく皆、自信をなくしていた。いつも下向きで、もう自信をなくしたというより、やる気を失ってしまっているという印象さえ受けました。しかし技術そのものはキャッチアップされていなかったんです。製品はキャッチアップされていましたが、日本の技術はそれ程やわなものじゃありません。ただ、技術がキャッチアップされたわけでもないのに製品がキャッチアップされたというのも不思議な話ですよね。自信を喪失する必要はまったくないのですが、日本人というのは自信をなくすととことんうなだれる習性がある。

 それから、「日本のものづくりがグローバリゼーションの環境変化に立ち遅れているのではないか」という話がありました。グローバリゼーションという言葉自体は皆さんも口にしたことはあるでしょうし、聞かされたこともあるでしょう。実際、あちこちで言われていた。たしかにこの「グローバリゼーション」が非常に大きなキーワードだったんです。

 日本企業の経営者もグローバリゼーションとは言いますが、本当の意味はまったく分かっていない。私はあちこちで質問しました。「つい5~6年前は国際化と言っていたじゃないか。国際化とグローバリゼーションはどう違うんですか?」と。皆さんも考えてみてください。「英語と日本語の違いだ」なんて言う人もいました。そんなことはないですよね。国際化はinternationalizationですから。いちばん多かったのは「最近の流行語」という答えです。日本の経営者の考えはこの程度なんですよ。これでは日本が危ない。その程度のままなら本当に世界から相手にされません。日本はグローバリゼーションと国際化が大きく違い、現在の産業構造が大きく変わっていることも理解しなければいけない。昔の産業革命とは言わなくとも、それに匹敵するぐらいの大きな変化が起こっているんです。そのキーワードがグローバリゼーションなんですね。日本はそれに立ち遅れていました。

 日本のものづくりはグローバリゼーションに適用していけるのでしょうか。たしかに現在の日本はガラパゴス現象に入っています。ガラパゴスというのはご存知ですよね。アフリカの南にあり、ダーウィンに種の起源という進化論の着想を与えた島です。ガラパゴスにいるゾウガメやイグアナはよその島に行くと死んでしまう。環境が変わると適応できなくなってしまうんです。日本製品もそのようなガラパゴス現象に陥っている。日本で皆さんが使っているテレビや冷蔵庫は、日本から一歩出るとほとんど使えないんですよ。アメリカなど、日本と同じレベルの豊かさを実現している一部の人々は使いますが、新興国やアジアに出て行ったらほとんどだめ。もうタダでも嫌だと言われます。グローバリゼーションに際しては、ものづくりの経営戦略と開発プロセスも当然変わってくるのですが、日本がこの変化にも気付いていませんでした。

 さらに冒頭でもお話ししましたが、技術的イノベーションが競争優位の源泉に繋がっていなかった。これについては経済産業省も当初、「そんなことはない」と言っていました。「テレビや携帯といった一部の分野で負けてはいるが、他はそうじゃないんじゃないか」とね。でもアブダビで原子炉をつくったこともない国に受注を持っていかれたことが大ショックだったんだと思います。

 色々と悲観的な話を続けます。日本の一人当たり名目GDPは、2000年は主要国のなかで3位でした。しかし2007年は19位、2008年は23位まで落ちてきた。もう経済大国でもなんでもないんですよ。OECDでも下から3番目。標準的に使われているIMD国際競争力でも同様の結果が出ています。 93年からずっと1位だった日本は、2000年以降にどんどん順位を下げて2007年には24位、今年2010年は28位まで落ちた。アジア勢でベストテンに入ったのは台湾のみで、8位です。中国は18位、韓国は23位、そして日本が28位。これほど日本は失われていて、世界で相手にされていないんです。だから鳩山さんがアメリカに行ってあれだけ馬鹿にされたのは、鳩山さんのせいだけではないんですね。日本全体がそうなってしまったんです。バングラデシュやベトナムに行って一般の人々にジャパンだなんだと言ってみたところで、どこにあるか誰も知りません。サムスンやLGは知られているし「韓国はここだ」と分かるんです。

 そんな状況に陥っているにも関わらず、研究開発投資額は2007年に19兆円で世界3位。2位はEUだから単独国家としてはアメリカに次いで2位です。同年の研究者数も社会科学を含めると71万人でアメリカとEUに続く3位。研究者の数はすごく多いんですよね。で、同年の特許取得数は…、もうダントツで1位ですね。23.1万件で、アメリカの倍以上です。このデータからも分かるように、日本は何かイノベーションや発明を起こすと特許をとってクローズしてしまうんです。過去はそれでも良かった。でも今はクローズしているとどんどん取り残されてしまう。これがグローバリゼーションにおけるひとつの特徴ではないかと思います。

 もう「特許だ特許だ」と言っている時代ではないんです。新しいものを出したら公開して、仲間を増やしていくことが重要なんです。政府があれこれ騒いで争わなくとも、仲間を増やすことで皆が日本のつくった規格を守ってくれればデファクトスタンダードになっていきます。たとえば来年から地デジになりますよね。地デジにも規格がありますから、日本の総務省がグローバル化を目指して頑張っていた。ヨーロッパやアジアは相手にしてくれなかったのですが、南米はほとんど取ったんです。8カ国すべて、日本の規格で地デジを放送することになりました。しかしそんなことをやっているうち、規格はとったけれども地デジが映るテレビはぜんぶサムスンに取られてしまった。サムスンとLGはずっと見ていたんですよ。そして日本の地デジが南米を制覇しそうだとみた瞬間、一気呵成に生産していったんです。だから南米ではサムスンやLGのテレビが標準になる。日本が後から行っても、もう勝てないということで、また実をとられてしまった。総務省、NHK、パナソニック、シャープ、東芝、NEC…、彼らが連合になっていけばすべて取れていたんですよ。それを勝手ばらばらにやって国も知らんと言っているわけですから韓国に負ける。これがグローバリゼーションの大きな流れのひとつなんです。

 日本の製造業では、営業利益を研究開発費で割った比率もどんどん下がってきています。お金をつぎ込んでも利益が上がらなくなっているんですね。これは今までのように、「イノベーションがあればいい」とかいう考えかただけでは世界で戦っていけないということの証拠でもあると思います。これは私の仮説ですが、韓国にいたころ日本を見ていて、どうも日本が変に見えました。日本の企業は景気が悪くなると一斉にR&D費や設備投資を抑えますよね。経費節減というやつです。皆さんの会社でも、最近は恐らく「廊下の電気を消せ」とか「新幹線はグリーンはだめだ」とか、ひどい会社になると「『のぞみ』はだめだ。『ひかり』で行け」とか言われているでしょ?これに皆さんは慣れていて、「不景気だから仕方がない」と思っていますが、そんなことはありません。経費削減の効果なんて僅かなものですよ。暗い気持ちになっているのにさらに電気を消して暗い気持ちになっちゃったら(笑)、良くないですよね。これは韓国から見ると非常に大きな指標になってしまうんです。「日本が設備投資を抑制したら、こちらが設備投資の加速をしよう」という指標に。これは目先しか考えていないから。景気が悪くなったということは、後で振りかえってみると1年から1年半前に悪くなっているということなんです。悪くなったと分かったときには上向きになっているんですね。だからそのタイミングで大きな投資を行う。無謀な投資と先見の明は紙一重です。日本の経営者はどうしても慎重になってしまいますが、韓国の経営者は「無謀な投資と分かったときにやめればいい」と考えます。金と度胸でどんと勝負するんですよ。韓国、台湾、中国に負けているのは金と度胸で勝負したものなんです。だから、負けているのはプロセス産業が多い。設備投資が鍵になりますから、半導体メモリなんてまさにそうなります。膨大な設備投資が必要になのに、日本はその判断ができない。液晶パネルや携帯電話も同様にことごとく負けてしまう。日本は金があっても度胸がないんです。グローバリゼーションでは度胸がないと勝てません。国としては「これからは金がなくても度胸がある中小企業は国が支援しよう」と、明確に掲げているわけではありませんが、そんな考えかたでやるようなことになっています。日本には、「石橋を叩いて渡る」という諺がありますよね? でも韓国は「石橋なら渡るな」という発想なんです。何故か分かりますか?石橋なら最初に渡ってもすぐ誰かが追従してくるからです。だから「崩れそうな木の橋を急いで渡れ」ということなる。渡った瞬間に橋が崩れたら2番手以降はついて来ることができませんから。一部の例外を除き、グローバルでやろうとしたら1番しか目につかないからです。

 だから韓国は何でも一番を目指します。スポーツでもなんでも一番じゃないとだめなんです。日本は豊かになったからということもありますが、オリンピックで銅メダルでも凄く喜ぶ。その意味では、韓国や中国のほうが勢いがありますね。日本が通り抜けた明治時代の『坂の上の雲』を、彼らはちょうど目指して登っているんです。目標がありますから。日本はもう目標をクリアしてしまったから坂の下の沼か何かを目指して「うわーっ」と落ちている(会場笑)。転げ落ちてはいるけれど、完全に落ちる前に辛うじて経産省がとどまろうとしているわけです。これから新しい雲を見つけようと。それが先程お話しした5つの成長戦略なんですね。

「もの=設計思想」と「つくり=職人仕事」を分けて考える
 ここでがらりと変わり、日本人のものづくりに関する私の仮説をお話しさせてください。

 実は『ウェッジ』という雑誌で中西進さんという、万葉の権威で奈良の万葉文化館の館長をやっておられる方が、「日本文化はどう展開したか」という連載をやっています。その第1回目をたまたま読んだのですが、そこに「“もの”というのは約一万年前の縄文時代、メラネシアからマナ信仰として渡ってきた」ということが書いてありました。そこでマナは、aがoに変わるという日本語の通則によって“もの”になったというんです。メラネシアは今のポリネシアですかね。たしかにあの辺にある「たらいも」という言葉は「とろろいも」になっているし、他にも同様の例はたくさんあります。

 つまり、ものというのは形あるものではなく考えかただということ。たとえば「もの思いに耽る」と表現するときの「もの」はひらがなですよね。漢字の「物」というのは、後になって出てきた表現です。「ものがたり」も同じ。ここで言う「もの」は考え方なんですよ。それを語るということ。ちなみに哲学者のアリストテレスは約2000年も前に、物質すなわち「もの」は、形状と質からなるものと定義しています。質というのはスペックですね。我々は「設計思想」と呼んでいますが。

 そういうことを日本は随分と前から分かっていたのだけれど、どうやら江戸時代のとんてんかんとんてんかん…、匠の世界に入ってから「ものつくり」と言うようになったんです。実は「ものづくり」というのは最近つくられた言葉で、公式には存在しない言葉だから辞書にも載っていません。匠の世界では「もの “つ”くり」なんですよね。皆さんが見ている生産技術や生産現場は「ものつくり」。濁りません。辞書には農工作の器具をつくるという意味で載っています。ですから「もの」と「つくり」を分けないといけない。中西さんは「ものづくりとは古代から持っていた超信仰的な力であり、それを形として表現したものである」と言っています。私はそこで「もの」を設計思想という言葉に訳したらどうかと考えています。その設計思想を有形物につくり込んでいくというプロセス、人工物につくり込んでいくというプロセスが、製造業のものづくりプロセスと言って良いのではないでしょうか。

 で、韓国の話に戻りますが、私はサムスンにいた当初、日本のものづくりを教えていました。でも、彼らにはものづくりの思想がまったく合わなかった。何故だろうということで韓国の歴史や文化を調べて、ついにはハングルで本を出すまでに至りました。韓国人に「韓国の文化はこうだ」と伝え、あちらにいる間はずいぶん講演も行ったし、KBSテレビや新聞にもとりあげられました。韓国は1392年に李王朝の時代となってから、仏教を排除して儒教を取り入れるようになった。これは朱子学ですね。朱子学が入ってきてから、北朝鮮も含めた現在の韓国文化が構築されていったんです。朱子学は朱子という儒学者が唱えた学問ですが、彼はちょっと変わった儒教を唱える人物でした。儒教というのは、孝を施すことを教えるもので、いかにして孝を施すかということを様々な儒学者が各々説いているのですが、朱子は、ちょっと変わった儒教を唱えたんですね。簡単に言ってしまうと儒教で目標を達成するためには孝を施すには貧乏人ではだめだと説いたんです。朱子学を読むとそう書いてある。富が必要だと説いているんです。で、富は得るには権力がないとだめ。この辺までは日本の政治家とも合っていますよね。ただ権力をどうやって持つか決めようというとき、韓国は試験で決めようということになった。中国では科挙という制度ですが、韓国は李氏朝鮮の時代に「兩班(やんばん)」という制度をつくりました。それがずっと、今日に至るまで続いているんです。だから大学を出た人間は手足を動かしてはいけないということになっている。

 手足を動かしてはいけない、頭で考えろ。すなわち大学というのはアカデミーなんですね。だからヨーロッパではユニバーシティとは言わないでしょう? 仏ソルボンヌ大学だけが工学部をつくったけれど、基本的にヨーロッパには工学部はありません。米国にわたり、ユニバーシティができ、フォードが量産技術を確立した。それが長い100年の歴史を経て日本に入ってきた。だから日本にはユニバーシティがあり、工学部があるのです。

ということは、ものづくりの「もの」にあたる部分を考えるのが大学で、「つくり」が職人さんになる。韓国ではそのふたつが分かれているんです。皆さんに考えていただきたいのは、たとえば「これは何ですか?」と言ってコップをひとつだけ見せると「コップ」と答えますよね。でも、紙コップ、ガラスのコップ、陶器のコップ、クリスタルのコップなど、材質が違う複数のコップを一度に見せたうえで同じ質問をしたら、「ガラスのコップ」とか「紙コップ」と答えると思います。紙、陶器、ガラス、クリスタルというのは媒体であり、材料の名前です。共通するのはコップという「もの」の名前。それが設計情報。だから今まで皆さんが使っている製品の名前というのは、ものの名前なんです。だからこそ「もの」と「つくり」を分けないといけない。

「もの」を売るのか、「媒体」を売るのか
 するとビジネスは二通りに分かます。ひとつは媒体でなく「もの」の価値観を売るビジネス。媒体はどうでもいい。ヨーロッパのシャネルやルイ・ヴィトンといったブランドはまさにそれです。たまたま3週間前、イタリアのブランドメーカーの役員たちが視察という名目で日本に滞在していたとき、私に講義の依頼がありました。そこで今の話しをしたら非常に感動して、「我々はやっぱり“もの”で売っている」と言うんです。媒体としては2,000円ぐらいのビニールが(笑)、20万円で日本の女性に売られていく。これは「もの」に価値があるからです。材料ではなくてね。

 でも日本製品はどちらかというと材料に価格をつけています。だから「もの」で差別化できなくなるとコストダウンを行い、価格競争に巻き込まれる。そして、いずれ負けて撤退する。この最初の例が半導体のDRAMでした。液晶テレビや携帯電話も、設計情報に価値がなくなってくると「つくり」に価値を求めていきます。皆さんの会社でも何かあるたび、製造に携わっているかたはコストダウンしろと言い続けますよね。これが日本を不幸にしてきたのだと思います。少し言い過ぎかもしれませんが、設計情報よりも媒体の値段を下げていこうとしているんです。

 私としては大学では「もの」を考え、そうでない人は「つくり」を担う…、「もの」と「つくり」は分けたほうが良いと思っています。「つくり」はどこでつくってもいいんですよ。これを見事にやっているのが現在のアメリカ。アメリカのつくりは1980年代、日本に奪われてしまいました。だからアメリカは「つくり」を止めて「もの」で勝負した。そうして出てきたのがマイクロソフト、インテル、グーグル、ヤフー、アップルなんです。アップルのiPhoneや iPadは「もの」ですが、その「つくり」は台湾や中国に任せているし、それを日本人も買っている。実際、世界中で売れているでしょ? ものに付加価値があるからです。本当は日本がそういう「もの」を生み出さないといけないし、その技術力も持っていました。しかしあまりにも「つくり」に傾注してしまったため、「もの」をちょっと忘れてしまったのではないかというのが私の仮説なんです。

 それをもう少し大きく考えると、すべてがものづくりではないかと思えるんですね。有形なものと無形なものを分け、さらに耐久と非耐久に分けたポートフォリオをつくっていくと、すべてが「ものづくり」に入ってくる。ソフトウェアやコンテンツもたまたま無形で見えないけれど、耐久品であり、立派な「もの」です。放送関係や対面接客サービスも同様です。スーパーマーケットで「いらっしゃいませ」とやるのも、非耐久で無形の「ものづくり」なんです。実はこの対面接客セールス…、つまり消費に付加価値を乗せて売るということは、30年~40年前の日本にはきちんとありました。ところが最近は忘れてしまった。サムスンやLGはかつての日本からそれを学び、現在、新興国で実践しています。皆さんは今、電子製品をヤマダ電機やヨドバシカメラのような量販店で買うでしょ? 30年前の日本には、そんなものはありませんでした。ナショナルとか日立といった街の電器屋さんから買っていたんです。電器屋さんが自転車に乗せて届けにきてくれるし、セットしてくれていた。昔はちょっと電圧が不安定で停電が多かったから必ずヒューズがあって、「ヒューズが飛んだ」って言ったらすぐに来て直してくれていました。そういう対面のサービスを通して、「あの電器屋さんから買おう」ということになっていったんです。でも今は量販店買う。だから今の電機メーカーは量販店がお客さんのようになってしまっている。結果、自分で作った製品なのに、自分で価格を決められないというところまで陥ってしまった。オープンプライスなんて情けない話です。こういう形になるとどうなるか。故障したから電話をしてもなかなか繋がらないし、やっと繋がったら一番押せとか二番押せとか(会場笑)。そんなサービスは新興国にありませんから、自分で売りにいくしかないんです。だから日本製品は売れない。某メーカーの担当者がブラジルやベトナムに行って「売れない」と嘆いている。何故売れないんですかと聞いたら「量販店がないから」と言うんですよ。あるわけないじゃないですか。日本の40年前を思いだしてくださいということなんです。とにかくサービスを含めてぜんぶ「ものづくり」。京都の舞妓さんもスーパーマーケットのおばちゃんも「ものづくり」なんです。

 結果的には消費というのが大事になります。日本人はそこを忘れている。皆さんも消費とは何かという点について、よく考えてみてください。消費者と言いますよね。でもお金を出して買っただけでは消費も生まれません。食べ物を買っても冷蔵庫に入れておいたら腐るだけでしょ。でも売ったお店のほうは消費されたと思っている。だから腐っているかどうかもわからない。自動車だって運転してはじめて消費になる。ということは、操作をしないと消費にはならないんですよ。操作をしたところだけが機能として出てきて、ユーザーに振りかかり、顧客満足になる。ワクワクするのかイライラするのか…。イライラしたら「二度と買うか」ということになるし、ワクワクしたらまた買おうと思います。これをさらに考えていくと、ひとくちに操作と言っても、たとえば北海道で操作するのと九州で操作するのでは環境が違います。だから環境によって操作が変わってくる。ですから、操作したぶんだけ機能が出てくるということになれば、操作をする機能だけで売らなきゃいけない。私はケータイでは電話とメール機能しか使いません。だからどんな機能があるか分からないんですよ。3年前に買ったものを今も使っているのですが、娘に聞いたらもの凄くたくさんの機能があった。でも消費していません。電話とメールのみ。そして日本では、使いもしない、消費もしない機能を詰め込んだ3万円とか5万円の携帯電話がつくられているんです。これはもう詐欺みたいなものですよね。サムスンやLGはそこをちゃんと考えているんです。たとえば最近、アフリカのナイジェリアでは携帯電話の普及率が90%前後にまで伸びた。凄いですよね。ナイジェリアの携帯は、ほとんどサムスン製かLG製です。電話機能だけで価格が1,000円ちょっとの製品。このあいだテレビであちらの部族の人たちが裸になって踊っているところを見たのですが、裸で踊っていても首には携帯をぶら下げているんですよ(笑)。それで隣の村と話をしている。電話の消費しかしていないから音楽をダウンロードしようなんて思わないでしょ? それなのに3万円というなら、絶対に売れませんよ。

 とにかく消費が重要なんです。有形の人工物には、ある環境のなかで操作して初めて消費が生まれる。これを日本のメーカーは忘れて、使いもしない機能を入れて「どうだ」と言う。で、それをまた日本人が喜んで使うという…、それだけ日本は豊かですから。でも皆さんだって携帯電話の機能をぜんぶ消費しているとは思えないですよね。機能は環境に合わせて小刻みに提供するものなんです。それがグローバリゼーション。 208カ国あれば208カ国の環境と操作がある。そしてテレビでも洗濯機でも冷蔵庫でも、208カ国すべてでスペックを変えていく必要がある。そこが日本の負けているところです。今までの開発プロセス、組織のあり方、ITの使い方、管理の仕方…、全部変えないといけませんよね。高度成長時代のまま、高機能・高コスト・高品質の製品をつくっていた時代と同じ組織能力で、いくらグローバリゼーションと言ってみてもだめだと私は思っています。

 ここで再び話を韓国に戻しましょう。私は87年にサムスンと知り合ったころから、韓国にはときどき行っていました。そこで見ていた印象としては、韓国は 83年から93年まで、他の国の“良いとこどり”ばかりしていた。すべてが中途半端でばらばらなシステムだったんです。そこでサムスン会長がもの凄い危機感を持ったんですね。きっかけはサムスン製のテレビと日本製のテレビを見比べたときです。遠くからみると2台ともまったく同じで、色もちゃんと映る。デザインはどちらかというとサムスン製のほうが良いぐらいです。ところがそれを分解してプリント基板を見てみると韓国製はばらばら。日本は整然となっている。そこまでは同じ機能だからまだいいですよね。でも裏を見ると、日本は一本の線も通っていない。でもサムスン製には、プリント基板をつくった後に配線を変更しようとして取り付けたジャンパー線がたくさん走っているんです。色とりどりのジャンパー線があちこち通っていて、もう時限爆弾みたいになっている。これだと、ちょっとしたことで外れ、それが故障の原因になるんですね。「なんという技術力の無さよ」ということで危機感を持ったのが93年。トップダウンで “新経営”というフレーズを掲げ、「女房と子供以外はすべて変えたい」とまで言い切った。さらに会長は「三星」という社名も良くないと言いました。そのころからグローバルの意識を持っていたんですね。それで横文字のSamsungになりました。

 で、93年以降もしばらくは日本追従型でやっていたわけです。ところがしばらくやっていると、何だか日本から聞こえてくるのは「失われた10年」とか、寂しい話ばかりだった。私も見ていましたが、とにかく寂しい話ばかり来るんです。ああいうのを見ていて厭になっちゃったんですね。それで日本追従をやめようということになりましたが、実際にはなかなか追従を断ち切れなかった。そこへ断ち切らせる事件が起こったんです。97年の金融危機です。あっという間に韓国へ飛び火して外貨がぜんぶ逃げていった。これは大変でしたよ。サムスン社員だって皆、リストラされた。特にサムスンの社員は、サムスンに入るために「おぎゃー」と生まれたときから英才教育を受け続けてきた人ばかりだったんです。で、やっと入社したらクビを切られる。しかもサムスンに入ったから結婚したという人がほとんどだったんです。だからクビになったらすぐ離婚(会場笑)。それはもう可哀想でね。即離婚される。そういう部下をたくさん見てきました。皆離婚されるから、当時はソウルの離婚率が一時的に35%まで上がったんです。もちろんサムスンだけではなく、ヒュンダイもLGもほとんどの財閥がクビを切っていました。

 そんなところからもの凄く頑張って、97年に国際化からグローバリゼーションへ移行していきました。結局、危機意識があったんです。日本人に足りないのは危機意識。危機感はあるんですよ。でも日本人は危機がくるとサッと身をひそめて素潜りしてしまう。「ちょっと苦しいけれど、もう少ししたら水面が下がるから」と言って、潜って鼻をつまんでいる。そして3年ぐらいすると水面が下がってきますから、バッと顔を出して「わー、やっと青空が見えた」と言いながら設備投資をする。いつもこのパターンでしょ?そして危機が過ぎると忘れてしまう。これが危機感です。でも、危機意識とは危機感を常に持つということ。良いときでも持つんです。特に韓国は隣に北朝鮮があって、攻めてこられたら4時間でソウルが火の海になる。それは強い危機意識を持ちますよ。私も10年住んでいて、本当に危機意識の毎日でした。「どうしよう」って。西や東でしょっちゅうドンパチをやっているんです。このあいだの哨戒艦沈没は日本でも大きく報道されましたが、小規模なドンパチならしょっちゅうやっています。

 そんな事件があると日本の大使館から通達が来るんですよ。その内容がひどくて、「日本円で100万円か1万ドル、現金で常に持っておいてください」って(笑)。「何かあっても大使館は何も出来ません。だからお金を配って南へ逃げてください。釜山まで来たら何とか軍艦出して保護してあげます」とかね。そんな通達が来る状況なら危機意識を持つじゃないですか。日本に帰ってきたらコロっと忘れましたけど(笑)。とにかくこれから危機意識を常に持つことが大事なんです。サムソンのグローバル化は「女房と子供以外はすべて取り換えたい」という悲痛な叫びだった。その結果、AV、情報通信、白物家電、半導体…、十数年前は日本が押さえていた多くのグローバルシェアも、サムスンやLGが奪いました。デジタルカメラも現在はキヤノンが一位ですが、そろそろ来年ぐらいに抜かれますね。李会長がいちばん言っていたのは、「グローバル企業の条件は営業利益が二桁以上あること」です。これに合格する日本企業は、信越化学、村田機械、東京エレクトロンなどの数社ぐらい。彼らも今年はだめなんですよね。ほとんどなくなってしまいました。さらに「ROEは 10%以上が超優良企業の条件」と言う。これを守らない社長はすぐクビになってしまうんです。日本企業なら3%あれば良いほうですよね。そんな、お互い傷を舐め合っているような日本企業はほとんど、残念ながらトヨタでさえグローバル企業として認知されていないんです。危機感ではなく危機意識。彼らは生き残りをかけて三星自動車の売却まで行いました。李会長は本当に車が好きで、車づくりが夢だったんです。それでやっとの思いで日産と提携してセフィーロをつくったときに、金大中大統領(当時)が売ってしまえ、ということになった。それが結果的に危機を乗り切った理由にはなっているのですが。

 ここでサムスンの変化をアカデミックに表現すると、モノの流れから設計情報の流れという「開かれたものづくり」にしたというポイントがあります。カタカナのモノは有形な人工物だと考えてください。顧客にとって価値のあるものを、設計上のモノにつくり込むという意味ですね。日本の製造業は現在、ほとんど形のあるモノに情報が流れているから、組織の管理情報がすべて生産技術や生産会議からつくられていく。サムスンはそれを設計情報の流れに変えていきました。工場の生産現場だけによる閉じたプロセスにせず、企画部門、開発部門、協力会社、あるいは顧客まで巻き込んだものづくりを実現していった。ここで大事なのは顧客の顧客という視点です。日本のメーカーは顧客を見ているけれど、顧客の顧客を見ていないんですね。消費者のことです。先ほどお話しした電機メーカーで言えば顧客は量販店でしょ?でも量販店からモノを買っている消費者を見ていないから消費が分からない。自動車メーカーも販売代理店が顧客になっているから、自動車を買った消費者がどんな乗り方をしているかが分からない。そこでサムスンはグローバリゼーションに向けて、地域専門家制度というシステムをつくったんです。地域専門家は英語ではだめ。もちろん英語はできますが、現地の言葉をきちんと勉強するんです。インドではヒンドゥー語やパミール語を教わる。そして現地へ1年間派遣されて、現地の人々がどんな消費をするか把握したうえで企画開発に送り込んでいるんです。そういうことをしている企業のものづくりと、使おうが使うまいがどかどかと機能を追加してばかりいる日本企業のものづくりでは、もう勝負にならない。負ける理由はこれでおわかりいただけると思います。

 今の日本人は、生産現場だけでなく、開発現場、購買現場、販売現場にも付加価値を乗せて売るということを忘れていると思います。資生堂やカネボウは現在、中国で対面販売をしています。日本でも昔はやっていましたが、もう見ませんよね?だから中国では資生堂もカネボウももの凄い人気がありますよ。味の素もそう。日本の食料品メーカーは頑張っていますよ。味の素は海外で、5粒1円の単位で売っているんです。これが売れていて味の素は立派なブランドになっている。日本でやっているように350円で売っても、消費者にそんなお金がありませんから、環境に合わせて売り方を変えることも欠かせないんです。

デジタル設計技術が「さ」と「性」の強みを減価させている
 サムスンのもうひとつの変化は「モジュラー・アーキテクチャ」。これは東京大学のものづくり経営研究センターの藤本隆宏先生が仰っていることでもありますが、製品にはモジュラー型とインテグラル型があります。前者は組み合せ型で、後者は擦り合わせ型ですね。たとえばパソコンのシステムなら、計算はパソコン、印刷はプリンタ、表示はLCDが担当する。インターフェースが標準化されているからどのメーカー製でも機能します。そんな風に組み合わせる製品をモジュラー型と言っているわけです。もうひとつは自動車に代表される製品。走行安定性や乗り心地の良さを実現しようとしたら、単に質の高いクッションを搭載するだけではだめですよね。サスペンションやボディー、あるいはエンジンをうまく擦り合わせた最適設計を実現しないといけません。これまでの日本製品は、このようなインテグラル型が多かった。日本製品の品質とはインテグラル型だったんです。で、私が色々な日本メーカーの方に「あなたのところの品質って何ですか?」と聞くと、皆、最初は黙る。考えこんじゃうんです。日本製品の品質が最高だと思っているけれど、言葉にしようとするとすぐに出てこない。なぜか。すぐには出てこないにしても、何とか話して貰った日本製品の良さをメモしているうち、面白いルールを発見しました。日本語では最後に「さ」が付くんです。ひらがなの「さ」。燃費の良さや静かさ。あるいは漢字の「性」が付きます。安全性、経年性、保守性、信頼性などですね。「さ」と「性」は、よく考えるとアナログの世界なんですよ。アナログで表現される魅力にはキリがありません。何dBが静かさという定義はありませんから。「うちの製品は某社より静かです」というと、その某社が出てきて「B社より静かです」となる(笑)。そしてB社もまた静かなのをつくる。これが顧客にとって本当に良い品質なのかというのは別ですよね。走行安定性、燃費の良さ、乗り心地の良さ…そのためには摺り合わせするしかないんです。これらはかなり豊かになり、そういう要素を求める人でなければ受け入れられません。新興国では無意味なんです。100 dBがうるさいかどうかは分かりませんから。たとえばインドでは現在、日本の某・空調メーカーの製品がとても伸びていますが、聞いてみるとインドでは 100dBが静かすぎるというんですね。インド人は動くものやうるさいものにしか金を払わない習性があるためなんです。だから、500dBとかいうもの凄い音をさせている。なおかつ、人に対して扇風機のように集中的な風をあてる。これがインドのクーラーです。夏は外気が50度ぐらいになりますから、部屋全体を冷やそうと思ったら3日ぐらいかかってしまいます。だから人に当てるしかないんです。それが売れている。そんな風に消費そのものが大きく違ってくるんですよ。そこで擦り合わせて、何とか「さ」なんて言っても売れないですよね。

 日本のものづくりの特徴とは、アナログものづくりの特徴だった。ところが最近はデジタル設計技術になって、日本の設計者が「さ」や「性」を求めて苦しんでいる領域をあっという間にマイコンが実現してくれるようになりました。これが大きい。マイコンをマイクロコンピューターと誤解している人がかなり多いのですが、マイコンとはマイクロコントローラユニット(MCU)のこと。「さ」や「性」を実現しようとするとアナログ回路が入るんですね。ここにDSPを使おうと数ミリ秒のタイムラグが発生するから、イギリスのARMコアが主流です。そこに外部入出力機能もワンチップにしたものがマイコンとして複数の部品を擦り合わせているから、あっという間に中国でも韓国でも日本の「さ」や「性」が実現できてしまう。それである程度抜かれてしまったんです。

 ではここで、日本勢がどう抜かれたのかを見てみましょう。垂直統合の擦り合わせ型からマイコンが擦り合わせる組み合せ型に抜かれて、結果的に日本が撤退したものは、カラーテレビにはじまり、VCR、PC、デジタル携帯電話、LCD、CD-ROM、DVDまで…。皆、負けてしまいました。その次に太陽光発電、プリンタ、複写機、自動車、電子部品。これらは私の想像ですが、この辺までは恐らく組み合せ型で代替されてしまうだろうと思っています。自動車はガソリンエンジンであれば日本がまだ勝つかもしれませんが、5年以内にEVに移行していくでしょう。EV車になると日本勢もどうなるかわかりません。トヨタはちょっと危ない。EVの技術はまったくないので、このまま潰れていく可能性はあります。しばらくはハイブリッドでいくと言っていましたが、あまりにもEV 車の発展が急速だった。だから今は慌ててシリコンバレーの企業と技術提携して、技術を貰うことにしましたけれど。これからのEV車は原子力で動くから、原子力発電をきちっとやらないといけません。

 原子力という話が出ましたので、ここで、冒頭でも触れたアブダビの一件についてお話ししましょう。アブダビでの受注は原子炉の技術勝負になったわけではないんです。石油はいずれに枯渇しますから、UAEとしては、今エネルギーを原子力発電に替えたかった。だから原子炉をつくる技術ではなく、稼働率が問題になっていたんです。韓国はフランス製の原子炉を15基保有していますが、その稼働率は90%。日本は55基保有していますが、稼働率は60%未満なんです。なぜかと言うと日本人のトラウマですね。長崎と広島。“原子”とつくと背筋が寒くなってしまう。ちょっとでもトラブルがあったら「反対!」となってしまうんです。そもそも原子爆弾と原子力発電はまったく原理が違うのに、です。日本では二次冷却水を貯蔵するタンクに少しヒビが入って水漏れすると、それだけで大騒ぎになって2~3年止まってしまいます。でも韓国は水漏れしたってへっちゃらですよ。止めるわけがない。原子炉が爆発したら別ですが(会場笑)。世界中で300~400基の原子炉があるにも関わらず、過去に爆発で人が死んだ例は2件しかありません。アメリカのスリーマイル島と旧ソ連のチェルノブイリだけ。もの凄く安全なんですよ。だからアブダビの受注では、「原子炉をつくったことがないのにどうするんだ?」と聞かれた韓国が、「隣に日本があります」と言ったら、「おおそうか。日本の技術は大したものだから、じゃあ発注しよう」ということになった。実際、韓国勢は帰国したらすぐ東芝に発注しました。要は運用技術がなかったんです。日本に頼んでも、何か起きたらすぐ止められると思ってしまう。それでは彼らも困ります。これは技術が競争優位になっていないという証拠なんですね。技術を競争優位に変えるためにはシステムとして戦わないといけません。韓国は韓国電力一社が前に出てきて戦いましたが、日本は、北海道電力、東京電力、関西電力…、7社がばらばらに動いていた。それをひとつにして売っていかないとだめだということです。

ものづくりのガラパゴス化の一因はQCDにある
 なぜ日本のものづくりがガラパゴスになって通用しなくなったか。大きな原因はそのQCDにもあります。まずはQ(品質)についてお話ししましょう。先程も触れましたが、日本製品の品質はメーカーが勝手に決めています。でも品質は顧客が決めるもの。顧客は何によって品質を決めるかというと、購入価格で決めるんです。その証拠に100円ショップにはクレームが一件も来ません。私が日本に帰ってきたとき、家のある茅ヶ崎の駅前に100円ショップができていた。凄く便利で私もちょくちょくショベルなんかを買っているのですが、結構具合が良い。ただ、やっぱり3カ月ぐらい経つとぽきっと折れたりします。でも100円なら文句言わないですよね。ひょっとしたらクレーム処理をやっているかなと思い、実験も兼ねて聞きに行ったのですが(笑)、クレーム対応部門はなかった。何故かといえばクレームが一件もないから。お客さんは100円の品質ならこんなものだろうと思って買っているんです。それが3~4カ月で何かおかしくなっても、クレームをかける電話代のほうが高コストということになってしまう。それはお客さんが品質を決めているということですね。日本メーカーはここを忘れている。

 サムスンの品質に対する考えているのは、ボリュームゾーンの顧客と先進国市場の顧客では要求仕様が違うということです。自動車なら、ボリュームゾーンでは発進して、曲がって、止まればOK。そしてたくさん人が乗れるようにしたり、雨で濡れないような屋根がついたらもう立派な車です。しかし日本のエンジニアはそれを車と呼びません。ハンドルが堅いとか何だとか色々と言いはじめる。でもそれは、ボリュームゾーンの顧客が考える要求仕様と違っていれば過剰機能または過剰品質に過ぎないんです。

 品質についてもうひとつ。日本メーカーは足し算と引き算はできても掛け算ができないんです。たとえばコストは足し算ですから、「ここでいくら、そこでいくら。で、全部でいくら」と考える。逆にコストダウンはいくら倹約したかという引き算ですよね。しかし日本メーカーは品質も足し算だと思っているようです。ラインがあり、コンベアがあり、ひとつの工程を90秒で流していく。次の工程にはインライン検査を行って不良品を送り込まない。だから100の工程があったら 100点満点の足し算になってしまう。こういう考え方だから先日の騒動でも「顧客が悪い」とか「フィーリングの問題」なんて言ってしまうんです。品質は掛け算ですから、仮に工場で100点でも、消費者が最後に消費品質という“0”か“1”を掛けるんですよ。プリウスもレクサスも最後にゼロを掛けられたから、トヨタの車は品質が悪いということになってしまった。品質は掛け算なんです。皆さんもこれは絶対に覚えておいてください。サムスンの場合は体感不良と言っていますが、クレームはすべて受け付けて直していきます。クレーム以前の不平不満も受け付けます。最初は不平不満であり、それ放っておくとクレームになるからです。自動車の場合はそれを放っておくとリコールになる。クレームが出てからリコールに至るまでの時間というのは、実は世界中ですべて測られているのですが、アメリカはフォードなどが4~5カ月に対して、日本の大手自動車メーカーは8~10カ月とか、18カ月とか。これは、自分でもの凄く技術を持っているから、かえってそういうことが起きるのですね。特にグローバリゼーションでは技術の過信は禁物です。

 C(コスト)についても同様です。日本人は100円の部品を5円下げるために血の滲むような努力をします。これは美意識でもありますよね。それ自体は良いのですが、グローバリゼーションでは全体算でコストを下げるしかない。無駄なものはつくらず、売れ筋をつくるということです。売れないものをつくらないというのは鉄則なんです。私は立ち食いそば理論と呼んでいますが、サムソンは消費をぜんぶ変えていきます。もちろん、インド用、中国用、パキスタン用、バングラディッシュ用、アメリカ用…、全部ゼロから変えていたら大変ですよね。だからここで立ち食いそば理論になる。立ち食いそばのお店ではうどんとそばのおつゆは同じです。知っていましたか?(笑)私はうどんとそばで、つゆぐらいは違うだろうと思っていました。しかも注文を受けてから茹でているわけではありません。注文を受けてからは温めるだけで、実はあらかじめ茹でてある。そこから天ぷらそばやたぬきうどんに変わっていくんです。これは消費が違うからお客さんに選んで貰うということですよね。これを経済学でいうと、どこでカップリングを解くかということになります。これが高いほど利益率が高い。ところが日本はここがすべて手づくり。信州の信濃でさんざんお客さんを待たせて3,000円のそばですと言っている。お客さんが来てからそば粉を摘みにいったりするのが(笑)、良いとされているんですよ。それをすべて否定するわけではありませんが。

 D(納期)についても考えを改めないといけません。そもそもdeliveryを納期と訳すのがいけない。誰が訳したのか、本当に最悪の言葉です。納期というのはお客さんを待たせるということでしょ?待たせたら絶対にだめ。もし訳すとすれば、顧客が要求するときに持っていくという意味での“タイミング”でしょうか。在庫が悪だというのは企業側の論理なんです。顧客視点で考えれば在庫は常に持つべきものです。例えば自動車メーカーで言えば、アメリカなどでは、自動車は朝買いに行ったら昼に乗って帰ります。在庫がなければ別のディーラーに行ってしまうからぜんぶ置いておくわけです。だから買取ではなく、売れないものはぜんぶ戻します。しかし、それがリーマンショックで一気に数百台の返品になってしまい、あのトヨタすら赤字になった。アメリカは日本のようなディーラー買取ではありませんから、ジャストインタイムなんて言わずにどんどん生産するんです。また、サムソンのD(納期)はアフターサービスについても徹底して顧客満足を大切にしています。たとえば冷蔵庫が故障したとするなら、そこで1日でも壊れたままなら本当はだめですよ。食品だって腐ってしまいますから。洗濯機だって、日本では故障するとコインランドリーに行けと言われてしまう。そういうことじゃないですよね。サムスンは1時間で直します。どうして1時間で直せるかは今日は時間がないので割愛しますが、日本の場合は1週間かかります。これはいけない。もちろんなかなか壊れないというのはありますが。

卵の殻は自ら破らねば鳥にはなれない
 最後に、今世界で何が変化しているのかを考えてみましょう。グローバリゼーションとデジタライゼーションというのが重要なキーワードですから、ぜひ皆さんも会社に戻ってから仲間とともに、国際化とグローバリゼーション、そしてアナログものづくりとデジタライゼーションの違いを議論して欲しいと思います。サムスンがやっていたのは、当初は「日本のものの国際化」と言っていました。しかし日本のものづくりをよく見てみると「日本のものは現地の要求に関係なくつくられているじゃないか」ということになった。日本で設計したものを、安い労働力を求めて海外生産しただけじゃないかということになったんです。これではだめですねと。それならサムスンは国際化からグローバリゼーションに移行しようとなった。サムスンが考えるグローバリゼーションの定義は、「市場として期待されるところに工場の拠点を置いて、その国の文化にあった地域密着型のものづくりをする」ということです。だから日本にはもう学ばないと決断したのが 98年。そこから急成長していきました。そのために人材育成に関して言えば、世界で70カ国ぐらいの語学を勉強し、地域専門家育成教育ということで1年間現地に派遣させるようにした。今では地域専門家がグループで4,000人近くいます。

 ここであるアンケート結果をお見せしましょう。経済産業省の資料によると、サムスンが狙っているのはアジア8カ国のなかでは「平均的生活層」の8億7千万人なんです。日本はここでほとんど負けています。でも、競争志向的で社会を牽引する価値観を持った「イノベータ層」、高級品や嗜好品を好む「趣味嗜好層」、あるいは外交的でのし上がる機会を探している「上昇思考層」も、それぞれ4億5千万人前後いるんです。これは「さ」と「性」が好きな人たちですね。日本はここを狙うべきです。サムスンは考え方がデジタルだから「さ」と「性」は弱い。現在韓国勢がとっている「平均的生活層」の市場で戦うのは止めたほうが良いでしょう。そのもう少し上の層を狙うべきです。こういった中間層の定義はこれまでなかったのですが、年間の可処分所得が5,000ドルから3万5,000ドルの人々を中間層といって、これはBRICsに6億3,000万人います。これまで日本が生産拠点としていた地域は、現在、消費国に変わっているんですよ。これは大きな変化でしょ? 3万5000ドルといったら日本の中間層にも近いですよね。ということは、世界には結構いるんです。日本の「さ」と「性」を好む人々が。

 今日は悲観的なこともかなりお話ししましたが、なんだかんだ言ってもひとりあたりのGDPを見てみると、現在の韓国の国力はまだ25年前の日本なんですよね。中国は38年前。38年前の日本では大阪万博をやっていました。中国は今ちょうど上海万博をやっていますから、そのぐらいの生活水準ということなんです。だから38年前に日本はどうやって商売していたか…、そんなことをちゃんと思い出しながら商売をしたほうが良いと私は思っています。

 私の論理では、韓国は何千年も繰り返して侵略と戦争に明け暮れていた国ですから、日本のように何十年先や百年先が見えていない。「この国は変わらないだろう」と言えないからこそ基礎研究ができないんです。だから基礎研究にはあまり投資しない。彼らが「隣に日本があって良かったね」というのはそのせいなんです。日本は基礎研究をやってくださいと。それを注意深く見ていて、製品になったら持ってきて、そこからキャッチアップをはじめる。一般的にものをつくるときは、まず要求機能を考えてから構造に落とし込むのですが、そこにはさまざまな制約条件が入ってきます。「いくらで」とか「いつまでに」といった要素以外にも、最近ではRoHS対応などの環境要素も重なりますから、それはもう複雑な連立方程式を解いているようなものになります。サムスンは日本がそれを解いたら、そこを一気にリバースする。そのままそっくりに安物部品で組み立てるのはコピーエンジニアリングと言って、これは中国産ですよね。韓国は進んでいるからさすがにそれはしない。ただ、日本が行った複雑な連立方程式の解から機能の引き算を行うんです。これは簡単な独立一次方程式。だからキャッチアップも早い。技術を学ばなくても、製品のキャッチアップが早いのはこのせいなんです。

 したがってこれからの日本は、まずはものづくりの組織能力とアーキテクチャをグローバリゼーションに適合させなければいけません。BRICsや NEXT11など、まだまだ市場はありますから、その制約条件に合ったものをつくっていくこと。中国なら芋が洗える洗濯機を出さなきゃいけないし、中近東ならお祈りのときにモスクを指してくれる携帯電話をつくらないといけません。競争力とは価格競争力だけではありません。顧客によって、デザイン、機能、性能、品質…、色々と消費は異なってきます。だからその消費に対して競争力があるか。一般的に競争力というのは製品で言えば、その製品が顧客に選ばれる力ですよね。でももっと抽象的に言えば、誰かが誰かに選ばれる力と言えます。日本は工場や現場が強すぎるし、それを「顧客のため」と言っているけれど、顧客は工場や現場で選んだりしません。会社で選ぶし本社で選ぶ。だから工場は本社に選ばれるんです。選ばれる力があるということが競争力なんです。

 また、競争力には裏の競争力と表の競争力があります。日本は裏の競争力は強いんですよ。肉体を鍛えに鍛えているから。でも肉体はお客さんに見えませんし、見せないでしょ?ところが値段や広告、あるいは利益率というものは見えますよね。これが表の競争力ですが、これが日本は弱い。これを見せるようにしていくべきです。私が韓国で住んでいたマンションでは、隣のおばちゃんがスーパーに行くとき、寝巻の上にミンクを着ていました(笑)。見ていると凄いんですよ。スーパーの店員もミンクを着ている人には丁重になる。私みたいにショートパンツとTシャツ姿はあっちにいけという感じでした(笑)。これは表の競争力の差によるものですよね。恐らく私のほうがお金は持っていたのでしょうが、それは裏の競争力だから見せないようにしていた。日本人にはそういうところがあるんですね。

 最後になりましたが、日本の企業はこれから産業構造の変化に合わせて大きく進化していかなければいけないと思います。「地球上に生き残った生物は強い生物ではなく、環境に最も適応した生物である」と、ダーウィンも言っています。危機の経営というのは、支配則にいち早く気付き、社会の要求や変化に素直に対応するということ。過去の成功体験、固定概念、惰性、利己主義、高慢さ…、これらが進化を妨げるんです。とくに高慢というか奢りですね。その殻を破らないといけない。高慢な卵の殻は人に割られると卵焼きにしかなりませんが、自ら破っていくと命を持った鳥になります。鳥になったらどんどん成長していきます。最後は食べられますが(笑)。ぜひ皆さんも殻を自分の力で割ってください。これが日本の生きる道だし、日本が産業構造の変化に対応した新しい競争力を育てていけば、必ず明るい未来が待っていると考えています。本日は長いあいだご清聴ありがとうございました。

国籍や歴史など全てを超えさせた李会長の決意
会場:冒頭に(モデレータを務める、グロービス経営大学院教授の)尾関(好良)さんから「行動する勇気」というお話がありましたので、その点でひとつお聞かせください。先生はサムスンから依頼があったとき、1年ほど悩んだ末に行かれるという意思決定をされたと伺っています。そのときに、何を考え、どんな悩みがあり、何を捨て、最後にどんな基準でサムスンに行くという結論に至ったのか…。そのあたりをお聞かせ願えますでしょうか。

吉川:会長とは87年と88年に会って以来あまり往来はなかったのですが、93年に再び会って、その顔を見たとき、本当に感じるものがありました。あのときは「サムスンを変えたい」ということで、グループの役員250人をフランクフルトまで連れて行っていたんですね。私に電話があったのはフランクフルトからでしたが、もう一度会って欲しいということで、後日改めて東京で会いました。「とにかく変えたい」と言っていたのですが、もう会長はほとんど寝ていないんですよ。毎日世界各地で役員たちに講演をしていました。サンフランシスコ、ロス、ニューヨーク、シカゴ…、世界中の先進国に赴いて、役員たちに「先進国はこうなんだぞ」ということを目の当たりに見せながら、毎日朝五時まで仕事をしていた。ですからもう肌荒れも本当にひどくてね。それを見て、私は感動したんです。日本人とか韓国人とかエンジニアという枠を捨てて、何か私がひとりの人間として役に立てるなら行こう。そう思って決心しました。ただ、韓国人は理の世界ですから(笑)、皆頭がいいわけですよ。だから私も少し勘違いしていて、日本のものづくりを教えれば半年ぐらいで帰れるかなと思っていました。でもそうはならなかった。それで文化を勉強して、何故日本の考え方が通じないかというのがやっと分かった。三年ぐらい歴史を勉強しました。今のご質問に答えるとすると、日本人とか韓国人とか恨みつらみとか、あるいは技術があるとかないとか…、そういうものは全部捨てていったんです。私を請うてくれるのならばね。そうしているうちに10年が経ってしまった。その間、どん底にいる韓国人も見たし、景気が良いときの韓国人も見たし、北朝鮮の怖さというのも体験しましたから、個人的には良かったなと思っています。

会場:二つほど質問がございます。私は東京の価値観というものを地方に在る本社へとフィードバックする部門におります。しかしなかなか会社の意識というものが変わりません。サムスンは4,000人の地域専門家の方がいらっしゃるということですが、どういった意思決定で現地からのフィードバックをものづくりに採り入れているのでしょうか。二つ目は最近、よく耳にするEVについてですが、従来の自動車メーカーや、モーターサイクルメーカーではなく、サムスンのような電機メーカーがEVをつくることに脅威を感じます。参考までにサムスンのEVに関する可能性についてお話がいただければと思っております。

吉川:意思決定については、恐らく皆さんも「財閥で会長だからもの凄いトップダウンなんじゃないか」と思っておられるのではないでしょうか。でも実はそうでもないんです。まず、サムスンは地域専門家制度をはじめたときに5つの本社を置くという方針を立てました。韓国だけではだめだから、アジア本社、ヨーロッパ本社、北米本社、日本本社をつくり、それぞれの本社に決定権を持たせたんです。また、私は日本の三現主義と異なる“新三現主義”と言っていますが、サムスンでは「現地・現材・現人」が基本です。現地では製造だけではなくR&Dも行い、現地で材料を調達し、現地の人々を雇用する。すると、たとえばインドでは冷蔵庫に鍵が欲しいということになるのですが、そのスペックはインド人が考えていくようになるんです。そんな風にして、すぐに製品へフィードバックする仕組みをつくっていたのですね。それからEVについてですが、サムスンは会長がエンジン車で悔しい思いをした瞬間から、実は電気自動車に入り込んでいます。もうエンジンはいいと。実際にはCT&Tというベンチャーを使って電気自動車やっています。現在、EVでトップは中国のBYDですね。それから韓国のCT&T、シリコンバレーのベンチャー企業テスラと続き、日本は4番手です。下手をすると日本のEVは負ける可能性があるかも知れません。もう考え方がまったく違いますから。日本人はリチウム電池を研究して300キロ走らせようとしますが、これは東京と熱海を往復できるという基準なんです。でも、このあいだ日産副社長の山下光彦さんに聞いたのですが、BYDはすでに302キロ走るEVをつくっているというんですよ。で、「ウソだろ!」と思って行ってみたら3トンぐらいの自動車で、そのうちの2トンが電池だった(笑)。ただ、日本ならそれは自動車じゃないと言いますが、実際に乗ったら熱海に行って帰ってくることができてしまう。だから売れるんですよ。そのようにして、彼らはまず売って、その後から少しずつ小さくしていくという発想なんです。でも日本は小さくなるまで出さない。何かこう…、消費者の望んでいる目的を見失っていますよね。「電池を小さくして、できるだけ走行距離を伸ばし、さらに値段が安くなるまで待とう」なんて言っているあいだに市場を奪われてしまう。たしかにリチウム電池は日本の技術が最高ですし、EVでは特に重要なパワー半導体分野を日本が圧倒的に押さえていますから、強みは大いにあります。しかし企業単体でやっているとこれまでと同じように持ってかれてしまう。やはり今日お話ししたように、国家プロジェクトとしてやっていく姿勢が大事だと個人的には思いますね。

会場:モジュール型とインテグラル型の関係でお伺いしたい点があります。「モジュール型では新興国市場で勝てない」とのお話がありましたが、顧客の声を聞いて発想を転換するのが大前提ということであれば、そこはモジュール型やインテグラル型に縛られず考えるべきということなのでしょうか。あるいは、やはりこれまでのインテグラル型を守っていったほうが良いということなのでしょうか。その辺のバランスを教えていただきたいと思っています。

吉川:そこは難しいところですね。インテグラルはある程度までモジュール化されていきます。設計者はインテグラルかモジュラーかを意識してやっているわけではなく、どちらかというとモジュールにしようとしてインテグラルになっているということですから。それがブラックボックスに包まれていくわけです。そこで私は国際標準化をとるべきだと思いますね。ですからインテグラル型かモジュラー型かを分ける必要はほとんどないだろうと思います。大事なのはブラックボックスをインテグラルにして外をモジュラーにすること。モジュラー化とは、ひとつの機能としてインターフェースを標準化していくことですから。それが国際標準化になればいいわけですよね。そういう形で出していくのが良いのではないかと思います。

会場:機械メーカーに勤めております。先生から見てサムスンのアキレス腱、あるいは課題があれば教えていただきたいと思っています。

吉川:吉川:アキレス腱はいっぱいありますよ。ひとつは要素技術にあまりお金をつぎ込まないこと。今、サムスンが勝っているのは金と度胸でやっているものばかりでしょ?でも金と度胸があるのは韓国に限らない。凄い勢いで中国が立ち上がってきている結果として負けることもあって、現に液晶テレビも中国市場からは、ほぼ撤退に追い込まれています。現場のほうでサムスンは4位か5位ですよね。(低価格の中国と高品質の日本とに挟まれるという)サンドイッチ現象が起こっていますから。だから現在は中国で売れている電子デバイスや装置に方向転換をしているんです。積層コンデンサもばんばんやるし、半導体製造装置もやるし、フォトレジストにも手を出す。たしかにこの方向転換は脅威ではありますが、こういった分野だけはかなりの基礎技術が必要です。日本は基礎技術や要素技術が強いのだから、やはりその点を意識して“持っていかれないように”すること。日本はガードが甘い。人材ごと持って行かれますよね。だから先日、御社の専務にもお話ししておきましたよ。「ガードが甘いから堅くしろ」って(笑)。

尾関氏:ありがとうございます。今日は私も聞いていて感激してしまいました。時間になりましたので講演会はこれで終わりたいと思いますが、本当に面白いお話を伺えました。本日は誠にありがとうございました。

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